白土三平「フィールドノート」「白土三平の好奇心」 成行古書案内

さて、突如として古本紹介でもやろうかと思うのである。

一番の理由は、手元にある本を紹介するだけでイイんだから、すんごく楽で良くね?っていう脳みそゼロメートル地帯レベルに安易な考えからなんだけど、どうもよくある古本紹介の方向性に不満があったからなのだ。

お前は荒俣宏か!っていうような手に入れづらい本を紹介してドヤ顔するってヤツ。いい本、面白そうな本ならば手に入れて、読んでみたいというのが本好きのサガである。それを知っていながら、どうよコレと自慢するマニアのケツの穴の小ささに、自分自身ぐぬぬぬぬと腹を立てるなんてことがシバシバあるのである。特に最近いくつか。死ね。
私怨じゃねーか。悪いか。

で、ここではソイツらとは違い、ナントカオフみたいな場所にボコボコあるわけじゃないが、それなりに頑張れば入手出来なくもない本、見かけてココロとフトコロに余裕があったなら買っとけ!という本を紹介して行こうと思うのである。
ほっぽり投げてあるのがイロイロとあるのに別方向のものをまた~ってのはあるんだが、やってる当人が楽しめているのかってのが当サイト的に重要だったりするのでイイのである。
てな感じで、気持ちよくなってるだけのマニアには背を向けつつ(シツコイ)行きましょう。
白土三平本
といったことで、しょっぱなに紹介するのは白土三平・著のフィールドノートシリーズ「土の味(1987年11月初版発行)」「風の味(1988年4月初版発行)」の二冊と“白土三平の好奇心”シリーズ「カムイの食卓(1998年4月初版発行)」「三平の食卓(1998年4月初版発行)」の二冊の計・四冊だ。
イキナリ四冊かよ!とお思いでしょうが、内容・構成共にほぼ同じなもんで、まとめて紹介しないわけにも行かないんですな。
なお、それぞれフールドノートはアウドドア雑誌の「ビーパル」に。好奇心シリーズは男性ライフスタイル誌からどんどんカタログ・マニュアル誌に堕落した末に廃刊してしまった「ラピタ」に連載していたものである。

これを紹介しようと思ったキッカケってのは最近のジビエへのブーム的な盛り上がりだ。ジブリじゃないぞ。ジビエ。
一応、何?って人のために説明しておくと、ジビエってのはフランス語で、その訳は「狩猟鳥獣」。鳥は鴨や鳩、キジなんかの野鳥。獣は猪、鹿、ウサギやらがそれに当たる。要するに“狩猟”によって得た野生の鳥獣(の肉)を指す言葉。日本は狼がとっくに絶滅し、さらにハンターも高年齢化ってのもあり、野生生物による食害問題がチョコチョコと取り上げられたりはしていたんだけど、最近になって妙な潮流に乗るカタチでエライ注目されるようになっているのである。

ファクトとしては大きく二つ。
まず、商業ルートが開拓されたってのがある。
今までのジビエの問題ってのは食肉に“加工”する部分、商品とするための保健所の規則等をクリアするための施策も施設も全く無かったってのがある。害獣の鹿やらを狩猟で仕留めても、どうしようもないので、そのまま埋めちゃったりしてたのである。
そこを害獣に苦しむ自治体やらが資金を出したりして、どうにかなるようになってきたってのが最近の流れ。どうにかなれば欲しいってトコも出てくるわけで、それで最近都内でもジビエを出す店が増えてきたってわけだ。
これはイイんだ。実に真っ当かつ結構な話なのだ。

問題はもう一つの方。
何か“狩猟”を含む、テメエで肉を獲るみたいなものを変に礼賛する方々が増えたんじゃねって辺りだ。こういうのが本当の人間の生き方だみたいな。妙なってのはコッチだ。
こういった流れに先鞭を付けたのは内澤旬子氏だろうかと思うが、元々差別問題から入っていった本人の意思とは関係なく、スーパーのパック肉を食ってる連中とは違うのよ!オホホホホ、みたいな選民臭たっぷりの面倒くささのカタマリといった感じの有り体になってしまっている。
これはソッチ方面の本を書いている著者達の問題だけではなく、Hanako以降の“新鮮で貴重な体験で成長する私”(しねえよ!)っていう啓発臭い切り口でしかこういったムーブメントを扱えなくなったマスコミの問題でもあるんだけど(というか広告戦略がそれから先がない)、ややそういったものに洗脳され気味なご当人たちの底が浅すぎるっていう根本的な部分もあり、まぁそこが激安意識高い系な方々の自意識にマッチしてしまったっつーことなんだろうと思う。
正直、イロイロと目を通してはいるんだけど(これに限らず自分と意見が相反するような本でも一応目は通す)、なんというか『世界ふしぎ発見』のミステリーハンター風味なんで、ダラダラと基本鼻くそほじりながら楽しめればイイんだけど、やっかいな自尊心と綯い交ぜとなったご高説をたれたりするので、志村けんのババア声で「あーそーですかー」と言いたくなるような内容の本が多いんだよね。

だったら、ジビエが一般化する中、自分たちは言わば処方箋として何を読むべきなのかって辺りで紹介したいのが、今回の白土三平の本なのである。古本なんで読むべきってよりも、読み返すべきか。

で、どんな本なのってのは宣伝的アオリ込みだが“白土三平の好奇心”シリーズ「三平の食卓」の帯が分かりやすいので紹介してみると~

白土三平はこんなものを食べてきた
野に遊び、海に学び
胃袋で考える。
「食」を通して縦横無尽に語られる
「胃袋民俗学」の結晶

“白土三平は~”となっているけど、要するにコレ、日本人が何を食ってきたかっていう本なのだ。
当然、ジビエも守備範囲だ。というか、別にジビエなんて言い換えなくても、我々はそれを食ってきたっていうのを十二分に分からせてくれる内容が詰まっているのである。

言葉でどーこー言ってもしょうがないので、どんどん内容を紹介して行こう。ジビエから始まってる話なんで、やっぱりソチラから攻めるのが良いだろう。
なお、内容はどの本と説明せず、ごった煮で行くのでご注意を。
白土三平「ソレソレ」その一
奥鬼怒の猟師に伝わる「ソレソレ」の回。
鹿を解体するときに腹腔にたまった血を無駄にせず、腸に詰めて持ち帰って煮たものが「ソレソレ」。
白土三平「ソレソレ」その二
今となれば、こういった写真は珍しく無いかもしれないが、当時はこれに抗議が殺到したそうなんである。
白土三平「肉」
で、それに答えるカタチでの「肉」の回もあるのだ。
白土三平「狸汁」
さらに「狸汁」の回。
狸は臭腺があり解体が難しいのだが、白土三平は事も無げにバラしている。たしか、狸汁に関しては椎名誠も書いていたように思うので興味のある人は、そちらも読んでみると良いだろう。
白土三平「イタドリの虫」
肉だけではない、イナゴやイタドリの虫のような昆虫食も当然ある。
白土三平「ケジャン」
そして、ジストマの恐ろしさと共に語られる「カニコ汁」、「蟹漬け(ケジャン)」の回。
白土三平「はえとり」
故郷である長野県・東信地方(上田・佐久地方)では猛毒のベニテングダケを食うという話。
この回を読んだ中島らもがドラック話本『アマニタ・パンセリナ』で「白土三平氏の焼いてくださったキノコで一杯やってみたい。僕にとっては神さまみたいな人だから、幻覚なんか見なくても見神体験できるわけである。」なんてことを書いている。

白土三平は房総の海辺で暮らしているため、海ものの話もたっぷりとある。
その中でも個人的なオススメは済州島出身の海女(あま)の指導で、「牙(は)ものまわし」で採ったイワシでメルチョ(魚醤)を作る回である。
白土三平「牙ものまわし」その一
「牙ものまわし」というのは肉食の大型魚獣(ハモノ)が小型魚を上手く包囲して喰いまくることを指す言葉なんだそうだが、梅雨前にこれによって追われた小型魚の群れが浜辺に打ち上げられることがあるそうなんである。
白土三平「牙ものまわし」その二
これは天然の丸干しでもあるので、そのままでも食えるのだが、同じ浜で旧知の海女・洪(ホン)さん会ったことから、それを使って叱られつつ魚醤を作ることになるのだ。結果は是非読んでもらいたい。
白土三平「牙ものまわし」その三
と、キリがないので、この辺りで止めておくが、こういった話が、白土三平の知識・思い出と共に、素晴らしい写真が添えられて語られるのである。まぁタマランですな。
なにしろ「唯物史観」で学生運動をやっていた人達を含むそっち方面の方々に崇め祀られたりもした人なので、まぁ消費社会というか、引っ括めての資本主義的なものへの疑念ってのも語られたりもするんだけど、正直愛嬌程度で全く気にならない。

最近出ている狩猟本・テメエ肉礼賛本を読むくらいだったら、コレを読んでもらいたいのである。奥行きが全く違うのだ。大人でもそうだが、特に小学生高学年辺りでコレを読めたら、素晴らしい読書体験になるだろうと思う。ビジュアルたっぷりなので、読まなくとも大丈夫だ。もちろん単なるアウトドア好きのアナタにもオッケー。

アマゾンの希少でもないのに出てる数が少ないと値段が上がる糞システムの影響もなんのその、それほど高い値段ではないので、内容からすると買っといて損は無い。まぁあんまりガツッと売れるような内容の本でもなかったから今後どうならるか分からんし。“好奇心”の方はそれなりだが、他の古本サイトも覗いてみよう。
フィールドノートの方は文庫化(「白土三平 野外手帳」)もされていて、こちらも残念ながら絶版ではあるんだけど、まぁ値段的にも入手はし易いので、そこから手を付けるのも良いだろう。
ただ、基本ビジュアル重視の本なので、小さくなって白黒になってみたいな、比べると残念な部分もあるのでご注意あれ。

というか、小学館はこのシリーズを復刊させた方がイイと思うんだけど。

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