東村アキコ 『主に泣いてます』 原子力な女の幸福

この文章は東日本大震災前に投稿されたものです。

大きい力というものは原子力を見れば分かるように平和利用ができれば大きな恩恵をもたらしてくれる訳ですが、逆にそれを上手く制御が出来なければチェルノブイリ等の原発事故よろしく災悪をもたらすものでしかありません。「美人もそうじゃね」と、後者の放射能ダダ漏れの不幸美人が運命の制御棒を探す道程を描いた(多分)のが本書『主に泣いてます』です。

ヒロインである紺野泉は美しすぎる容姿が災いし、接触した男はすべて『愛と誠』岩清水くん状態のストーカーと化すため仕事に就くことも出来ずに無職。
妹の結婚式で新郎に告白される~そんな我が身を儚んで崖から自殺を図ろうとするが、たまたまスケッチ旅行で訪れていた美大教授・青山仁に村上春樹ノリで拾われる。
仁の絵のモデル兼愛人として彼の絵画教室に自分の居場所を見つけ、ささやかな幸福を感じるものの仁には妻がおり、というか女たらしで―。
そんな常時メルトダウン寸前の状況の中、仁は仕事で渡欧。絵画教室の臨時バイト講師を自らの教え子・赤松啓介(草食系)に依頼。教室を訪れた啓介は入り口で仁王立ちする黒髪オカッパの少女・緑川つねに警告される。「この教室には美人がいる」「覚悟して入れ」と。
おずおずと教室に入った啓介が見たのは水木しげるタッチを再現した子泣きじじいのコスプレをした泉。
泉はつねの指導の下、キテレツな格好・行動をすることで自らの容姿がもたらす災いを避けて生活しているのであった。

というのが冒頭部分のあらまし。この泉のモテないためのキテレツな格好・行動ってのが、その元凶である怒涛の災いと共に物語の強烈な引きとなっています。
例えば、男に愛を告白される→この男を引かせなければ!→男が引くといえば泰葉(春風亭小朝の元妻)→この金髪豚野郎!と叫んだあとに「フライディ・チャイナタウン」歌いだす。
というコンボは東村アキコ作品特有のドライブ感と相俟って大いに笑わせてもらいました。

また他の作品同様、強烈でありながら妙に地に足の付いたキャラ立ては変わらず。しっかり感情移入できます。しかし、ベーシックな少女漫画的骨相を持っていた『海月姫』と違い、泉が現状不倫関係の中にいることからも分かるように大人向けといっていいでしょう。実際少女漫画雑誌ではなくモーニング連載だったり。

個人的注目点は舞台が向島って辺りでしょうか。隅田川沿いの落魄感(失礼)と懐かしさがないまぜになった古い街で建設途中のスカイツリーが見えるってのは、うつろいゆく日々の舞台装置として非常に上手いところを選んだなぁと。つねの家が料亭なのもあり、なんとなく成瀬巳喜男の『流れる』を思い出しました。

既刊は二巻で、まだ先は見えません。泉が背負っているものそれ自体にはまるで興味がない仁は論外となるので、啓介・つねとの関係性が軸となってストーリーが進んでいくんでしょう、と言いたいところですがラプンツェル的結末も考えられるのでなんとも言えません。とりあえず、今回は簡単な紹介程度に収めて連載が終了したらまた取り上げてみようかと思います。

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